森林経営管理制度(森林経営管理法、平成30年法律第35号、2019年4月施行)は、適切な森林経営が行われていない森林について、市町村が森林所有者から経営委託を受け、林業経営者に再委託または市町村自ら管理する仕組みです。2024年度時点で全国市町村1,718のうち約1,400市町村(実施率82%)が制度の実装に着手し、所有者意向調査の累計件数は約30万件、市町村経営計画の策定面積は累計5,000ha規模に達しています。本稿では制度実施の進捗、市町村別の取組実態、所有者特定・意向調査・経営委託の3段階フロー、所有者不明森林への代執行、林業経営者への再委託の運用課題を整理します。
この記事の要点
- 森林経営管理制度は2019年4月施行で、市町村が経営できない森林の管理を引き受ける新たな仕組み。2024年度実施率は全国市町村1,718のうち約1,400(82%)に到達。
- 所有者意向調査の累計件数は約30万件、市町村経営計画策定面積は5,000ha規模。意向調査では「自ら経営しない+経営委託希望」が4割、「自ら経営継続」が3割という構成。
- 所有者不明森林の代執行(探索・公告・特例措置)、林業経営者の選定・再委託、市町村経営区域の境界画定が運用上の3大課題。森林環境譲与税が制度実装の財源として機能。
クイックサマリー:森林経営管理制度の進捗指標
| 指標 | 数値 | 出典・備考 |
|---|---|---|
| 制度施行 | 2019年4月 | 森林経営管理法 |
| 全国市町村数 | 1,718 | 2024年 |
| 制度実施市町村数 | 約1,400 | 2024年度 |
| 実施率 | 82% | 林野庁集計 |
| 所有者意向調査累計 | 約30万件 | 2019-2024年度累計 |
| 市町村経営計画累計 | 約5,000ha | 経営委託受託 |
| 経営委託の意向比率 | 約40% | 意向調査回答ベース |
| 林業経営者への再委託 | 約2,000ha | 2023年度末累計 |
| 所有者不明森林(推計) | 私有林の3〜5% | 林野庁推計 |
| 運用財源 | 森林環境譲与税 | 2024年度500億円 |
制度の創設背景と仕組み
森林経営管理制度は、私有林面積1,747万haのうち適切な経営管理が行われていない森林(推計約3〜4割)に対応するため、2018年6月公布の森林経営管理法に基づき創設されました。背景にあるのは、零細所有規模(5ha未満が60%)、所有者の高齢化(70歳以上が約4割)、不在村所有者の増加(私有林の約25%)、相続未登記森林の蓄積(推計100万ha以上)という構造的問題で、これらが森林経営の空洞化を生んでいました。
制度の基本構造は、「市町村が森林所有者の意向を確認し、自ら経営しない所有者から経営委託を受け、意欲ある林業経営者に再委託する(経営に適した森林)」または「市町村自ら管理する(経済的に経営困難な森林)」という二段階の仕組みです。所有者から市町村への経営委託(経営管理権集積計画)と、市町村から林業経営者への再委託(経営管理実施権配分計画)の2種類の計画が制度の中核となります。
市町村実施率82%の構造
2024年度時点で全国市町村1,718のうち約1,400(82%)が森林経営管理制度の実装に着手しています。実施の定義は「条例制定または運用要綱策定」「意向調査の実施」「林業経営者の登録」のいずれかを行った市町村を含みます。残り18%の未実施市町村は、(1)森林面積が極端に小さい都市部市町村、(2)林政専門人材を確保できない小規模町村、(3)制度導入の意義を独自に判断中の自治体、の3類型に分かれます。
実施率の推移を見ると、2019年度(施行初年度)は全国の約30%、2020年度50%、2021年度65%、2022年度75%、2023年度80%、2024年度82%と段階的に上昇してきました。残り18%(約300市町村)の未実施は、当面横ばいで推移する見込みで、第6次森林・林業基本計画(2026年予定)では2030年度までに95%を目標とする方向で議論が進んでいます。
所有者意向調査の累計30万件と回答構成
制度実装の入口となる所有者意向調査は、市町村が私有林の所有者に対し「経営を継続するか」「市町村に経営を委託するか」を確認する手続きです。2019年4月の制度施行から2024年度までの累計件数は約30万件に達しており、2024年度単年でも年間約8〜10万件規模で実施されています。意向調査の対象選定は市町村が行い、概ね(1)経営計画認定外の私有林、(2)所有規模5ha未満の零細所有、(3)長期間施業履歴がない森林、の3条件のいずれかに該当する所有者が優先されます。
意向調査の回答構成は、概ね「自ら経営継続」が30%、「自ら経営しない+経営委託希望」が40%、「自ら経営しない+委託もしない」が15%、「不明・無回答」が15%という比率です。経営委託希望の40%が制度の主たる対象となり、市町村が経営権集積計画を策定して経営委託を受けます。委託希望でない15%および無回答15%は、別途市町村が個別対応する形で運用されています。
| 意向回答 | 構成比 | 市町村の対応 |
|---|---|---|
| 自ら経営継続 | 約30% | 経営計画認定の支援・補助金活用助言 |
| 経営委託希望 | 約40% | 経営権集積計画の策定・委託契約締結 |
| 委託も経営もしない | 約15% | 継続的な意向確認・所有者教育 |
| 不明・無回答 | 約15% | 所有者不明森林扱いまたは追跡調査 |
市町村経営計画と林業経営者への再委託
意向調査で「経営委託希望」と回答した所有者から、市町村は経営権集積計画を策定して経営委託を受けます。2024年度までの累計面積は約5,000haに達しており、2023年度末時点でこのうち約2,000haが林業経営者への再委託(経営管理実施権配分計画)に進んでいます。残り3,000haは市町村が直接管理するか、再委託先の林業経営者を選定中の段階です。
林業経営者への再委託は、市町村が公募で選定した「意欲と能力のある林業経営者」(市町村登録制)に対して経営管理実施権を配分する形で行われます。林業経営者の登録は都道府県単位で進められ、2024年時点で全国約2,000事業体が登録されています。登録要件は、(1)施業集約化能力(一団地100ha以上の集約施業実績)、(2)労働安全管理体制、(3)経営管理能力(5年計画策定能力)、(4)若手育成・継続的雇用、の4点が中心です。
所有者不明森林への代執行特例
制度の特徴的な仕組みが、所有者不明森林への代執行特例です。所有者の探索を行ってもなお所有者が判明しない森林(相続未登記、登記住所からの転出等)について、市町村が公告(6ヶ月の異議申立期間)を経て経営権集積計画を策定できる特例が設けられています。所有者が後日判明した場合、その者の権利は市町村による施業収益から相当額を供託する形で保護される仕組みです。
2023年度末時点で所有者不明森林に対する代執行は累計約1,000ha規模で実施されており、相続未登記森林(全国推計100万ha以上)の管理空洞化問題への現実的対応策として機能しつつあります。所有者不明森林の探索コストは1件あたり10〜30万円規模と高く、林業経営者の通常施業区域には組み込みにくいですが、森林環境譲与税により市町村がコストを負担できる仕組みが運用基盤となっています。
市町村類型別の取組実態
森林経営管理制度の取組は市町村類型により大きく異なります。山村型市町村(人工林面積大・林業活発)では制度実装が進み、意向調査の累計件数も多く、林業経営者への再委託面積も拡大傾向にあります。地方中核型市町村(人工林面積中)では、制度実装は進むものの林業経営者の選定で苦戦するケースが見られます。都市型市町村(人工林面積小)では、制度実装そのものが進みにくく、対象森林の絞り込みに時間がかかる傾向があります。
運用上の3大課題
森林経営管理制度の運用課題は3点に集約されます。第1の課題は、所有者不明森林の特定・代執行コストの高さです。1件あたり10〜30万円の探索コストは小規模所有森林(数ha〜10ha規模)の経営委託では収益的に見合わず、市町村負担が発生する構造があります。第2の課題は、林業経営者の供給制約です。再委託の受け皿となる「意欲と能力のある林業経営者」が市町村数に対し相対的に不足しており、特に中山間地・都市近郊では選定可能な事業体が限定されます。第3の課題は、市町村経営区域の境界画定です。複数所有者の小規模森林を集約して市町村経営区域を画定する作業は、地籍未了(林地48%)の森林では実務的に困難なケースが多く、境界画定だけで数年を要する事例があります。
これらの課題に対応するため、林野庁・総務省は2024年度から「森林経営管理制度推進事業」を強化し、市町村への技術支援、林業経営者の登録要件緩和、地籍調査との連携強化を進めています。森林環境譲与税による市町村財源の安定化、地域林政アドバイザー(全国400名超)の専門人材配置、林業大学校卒業者の市町村就職促進等の補完施策も並行して進められています。
所有者特定と相続未登記森林
所有者特定は森林経営管理制度の入口段階で最大の障害です。私有林の約25%が不在村所有者、3〜5%が所有者不明地、相続未登記森林は累計100万ha以上と推計され、これらが意向調査・経営委託の手続きを困難にしています。所有者特定の手順は、(1)登記簿(法務局)・林地台帳(市町村)の照会、(2)住民基本台帳ネットワーク等による現住所確認、(3)戸籍照会による相続関係の調査、(4)現地調査による隣接所有者からの聴取、の4段階で進められます。
相続未登記森林への対応として、2024年4月施行の不動産登記法改正で「相続登記の義務化」(相続を知った日から3年以内、過料10万円以下)が導入されました。これは長期的に未登記森林の発生を抑制する効果が期待されますが、既存の100万ha以上の累積分の解消には20〜30年以上を要する見込みです。森林経営管理制度の代執行特例は、この期間中の管理空洞化を埋める制度的手段として位置付けられています。
第6次基本計画への論点
2026年策定予定の第6次森林・林業基本計画では、森林経営管理制度の運用強化が重点論点として浮上しています。具体的には、(1)市町村実施率82%から2030年95%への引き上げ、(2)意向調査累計の年間10万件ペースの維持と累計60万件達成、(3)経営委託面積の累計5,000ha→3万haへの拡大、(4)林業経営者の登録要件緩和と地域中核経営体の育成、(5)森林環境譲与税の使途における経営管理制度関連費用の重点化、(6)所有者不明森林への代執行加速、の6点です。
これらは森林・林業基本計画の上位概念であるカーボンニュートラル2050年・地球温暖化対策計画と連動し、森林吸収量3,800万t-CO2目標達成のため、市町村森林管理機能の強化を通じて再造林率向上・主伐推進を支える設計です。森林経営管理制度は、このように地方林政の中核機能として位置付けが強化されつつあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 森林経営管理制度の市町村実施率82%とは何を意味しますか?
全国市町村1,718のうち約1,400(82%)が制度の実装に着手したことを意味します。実装の定義は「条例制定または運用要綱策定」「意向調査の実施」「林業経営者の登録」のいずれかを行った市町村です。2019年度の30%から段階的に上昇し、2024年度に82%に到達しました。残り18%は森林極小都市部・小規模町村・検討中自治体に分かれます。
Q2. 意向調査の累計件数はどのくらいですか?
2019年度から2024年度までの累計で約30万件です。年間8〜10万件のペースで実施されており、回答構成は「自ら経営継続」30%・「経営委託希望」40%・「委託も経営もしない」15%・「不明・無回答」15%です。経営委託希望の40%が制度の主たる対象となり、市町村が経営権集積計画を策定します。
Q3. 林業経営者への再委託はどのくらい進んでいますか?
2023年度末時点で累計約2,000haの再委託が実施されています。市町村経営計画策定面積累計5,000haの約40%が再委託に進み、残り60%は市町村直接管理または再委託先選定中の段階です。林業経営者の登録は全国約2,000事業体で、施業集約化能力・労働安全管理・経営管理能力・若手育成の4要件が登録基準となります。
Q4. 所有者不明森林にはどう対応しますか?
所有者探索後も判明しない森林について、市町村が公告(6ヶ月の異議申立期間)を経て経営権集積計画を策定できる代執行特例があります。所有者が後日判明した場合、その者の権利は市町村の施業収益から相当額を供託する形で保護されます。2023年度末時点で累計約1,000haで代執行が実施されています。
Q5. 制度の運用財源は何ですか?
森林環境譲与税(2024年度500億円)が中心的な財源です。市町村は譲与税を意向調査・所有者特定・境界確認・経営計画策定に充当し、森林整備地域活動支援交付金(30億円)と組み合わせて運用します。地域林政アドバイザー(全国400名超)の人件費にも譲与税が活用され、専門人材配置の財源となっています。
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まとめ
森林経営管理制度は2019年4月施行の市町村経営型森林管理制度で、2024年度実施率82%(全国1,718市町村中約1,400)に到達しています。所有者意向調査累計30万件、市町村経営計画策定累計5,000ha、林業経営者への再委託累計2,000haという進捗が積み上がる一方、所有者不明森林の特定コスト、林業経営者の供給制約、市町村経営区域の境界画定の3課題が残ります。森林環境譲与税500億円が制度実装の財源として機能し、第6次森林・林業基本計画では2030年実施率95%・経営委託3万haへの拡大が論点となる見込みです。

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