植林や間伐といった「施業」にお金が出ることは知られていますが、その手前――誰が持っている森かを確かめ、境界を確定し、所有者の合意をとりつける作業にも、実は補助があります。それが「森林整備地域活動支援交付金」です。2002年に創設され、2024年度の予算規模は約30億円。施業補助の森林整備事業(1,200億円)に比べればずっと小さいのですが、5ha未満の零細所有が6割を占める日本の森を集約してまとめる、いわば「入口」を支える制度として欠かせません。ここでは何にいくら出るのか、誰がどう使っているのかを見ていきます。
「施業」ではなく「施業の準備」を支える
この交付金の最大の特徴は、補助対象が施業そのものではなく、施業を実施するための準備活動だという点です。森林整備事業が植栽や間伐という結果に対する補助なのに対し、こちらは境界の確定、所有者の意向確認、施業計画の策定、路網ルートの選定といった前段階を、定額単価×実施面積で支援します。林業の工程でいえば、いちばん最初のつまずきやすい部分を後押しする制度です。
背景には1990年代後半の林業低迷があります。スギ中丸太は1980年代の22,000円/m³から2002年には9,000円前後まで下がり、零細所有者の施業意欲は冷え込んでいました。植栽や間伐に補助があっても、その前段(境界確認や所有者調整)でつまずいて施業に至らないケースが多い。そこを補う制度として設計されたわけです。創設時は施業集約化と境界明確化の2類型だけでしたが、その後、森林情報収集、路網計画、そして2019年の森林経営管理制度関連活動が順次加わり、現在の体系に発展しました。
何にいくら出るのか
対象は大きく5類型です。施業集約化(経営計画策定・合意形成)、境界確認・整備、森林情報収集、路網計画、そして森林経営管理制度関連の活動。それぞれに全国一律の単価が設定され、活動の実労務費のおよそ50〜70%を補う水準に置かれています。
| 対象活動 | 単価 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 施業集約化 | 10,000円/ha | 経営計画策定・所有者合意 |
| 境界確認・整備 | 5,000円/ha | 境界杭・標識設置・GPS測量 |
| 森林情報収集 | 2,500円/ha | 立木調査・GIS入力 |
| 路網計画 | 1,000円/m | 作業道ルート選定・踏査 |
| 経営計画作成 | 6,000円/ha | 5年計画書・図面作成 |
| 所有者意向調査 | 3,000円/件 | 経営管理制度関連 |
| 所有者特定調査 | 5,000円/件 | 登記簿照会・現地調査 |
たとえば平均3〜5haの所有者を10戸ほど集めて50ha規模の経営計画をまとめる場合、施業集約化だけで50ha×10,000円=50万円。ただし実際の労務費は地域差が大きく、平地・里山では1ha12,000〜15,000円ですが、急峻な奥山では20,000〜30,000円に達することもあり、単価10,000円では実費の3〜5割しかカバーできないこともあります。残りは森林組合の自己負担か、計画策定済み区域で森林整備事業の補助率が上がるぶんで間接的に回収する形です。
集約化がなぜ効くのか
交付金の中核は施業集約化です。これは零細な所有森林を1団地100ha以上にまとめ、林業事業体が効率的に施業できる経済合理性を作り出すプロセスを指します。所有者リストの作成から意向確認、境界の合意、経営計画の起案、市町村への認定申請まで、ふつう8〜10カ月かけて進めます。
効果はコストに表れます。5ha未満の森を単独で間伐すると施業コストは1ha80〜100万円ですが、50ha以上の集約区域なら60〜70万円まで下がります。1ha20〜30万円の削減です。交付金10,000円/haの投入で20〜30倍の経済効果が生まれる計算で、この合理性こそが制度を20年以上続けてきた根拠になっています。
もっとも、集約化には壁もあります。私有林の約25%は不在村所有者、3〜5%は所有者不明地と推計され、これらは集約の対象から漏れがちです。不在村比率は都市近郊で30〜40%、過疎地で40〜50%と地域差が大きく、一律の進め方では立ちゆきません。所有者不明地については2019年施行の森林経営管理制度が市町村による経営委託の道を開き、その入口の所有者特定調査をこの交付金が支えています。
地籍調査・経営管理制度との関係
境界確認(5,000円/ha)が必要とされるのは、林地の境界がそもそも曖昧だからです。日本の地籍調査は2024年時点で全国進捗率52%、林地に限れば48%にとどまります。地籍調査本体は国土交通省と市町村が担いますが、それを待たずに経営計画策定のため境界を確認・記録する作業を、この交付金が後押しします。実労務費は10haで20万円ほどかかり、交付金5,000円/ha(=5万円)では2〜3割の補助にとどまるのが実態です。
2019年施行の森林経営管理制度との連携も進みました。所有者への意向調査、所有者不明森林の特定、市町村経営計画の策定といった前段活動が交付対象に加わり、意向調査3,000円/件、特定調査5,000円/件などで支援されます。制度の市町村実施率は2024年度で82%、意向調査の累計は約30万件規模に拡大しており、これだけで9億円相当が運用基盤として投入された計算です。財源の中心は森林環境譲与税(年間500億円規模)ですが、細目活動の単価をこの交付金が補う併用構造になっています。
森林組合が担う運用の現場
交付の流れは林野庁→都道府県→市町村→実施主体(森林組合・林業事業体など)の4階層です。中心は全国約600の森林組合で、市町村単位の事務所や地域所有者とのネットワーク、計画策定の力量が、そのまま執行効率を左右します。組合活動が活発な地域ほど執行率が高い傾向です。
一方で市町村側の事務負担も見過ごせません。申請受付から完了報告審査、支払までで1案件あたり20〜30人時かかり、林業担当が1〜2名しかいない中山間市町村では年間50〜100件が処理の上限。これが執行率の地域格差を生んでいます。全国の年間執行面積は約30万ha規模で、岩手・宮崎・大分・北海道・秋田などの上位8県だけで全国の約半分を占めます。
これからの論点
課題はおおむね4つに整理できます。単価が実労務費の5〜7割補助にとどまり事業体の自己負担が残ること、相続未登記森林(推計100万ha以上)の処理コストに単価が見合わないこと、市町村ごとの運用要綱の差が参入障壁になること、そして地籍調査や林地台帳整備との連携不足で作業が重複しがちなことです。
林野庁は2024年度から林業デジタル化支援を通じて、電子境界確認やGIS連携、所有者データベースの統合を進めています。2026年予定の次期基本計画では、ドローン境界確認の単価追加や森林環境譲与税との連携強化が論点になる見通しで、譲与税が市町村に直接配分される仕組みと組み合わせ、この交付金は「市町村の森林整備を立ち上げるための資金」として位置づけが強まりそうです。地味ですが、森を動かすための最初の一押しを担う制度だといえます。
よくある質問
Q. 誰が申請できますか?
森林組合・林業事業体・市町村森林協議会などが実施主体となり、市町村経由で申請します。所有者個人が直接申請するのではなく、委託を受けた森林組合などが地域活動を行い、その活動に交付金が出る仕組みです。実務では森林組合が中核で、全国約600組合の8割が活用実績を持ちます。
Q. 森林整備事業との違いは何ですか?
森林整備事業(1,200億円)は植栽・間伐など施業の実施に対する補助金、この交付金(30億円)は施業の前段階となる地域活動に対する交付金です。準備段階を支えるか施業そのものを支えるかの違いで、両者は補完関係にあります。森林整備事業が補助率方式なのに対し、こちらは単価×実施量の定額方式という点も異なります。
Q. 全国でどのくらい使われていますか?
年間約30万ha規模で、ここ数年はほぼ横ばいです。林業県上位8県で全国の約半分を占め、森林組合の計画策定能力と強く相関します。創設来の累計(2002〜2023年)は約700万ha、累計交付額は約720億円規模に達しています。

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