衛星リモートセンシングは、地球観測衛星に搭載された光学・SAR(合成開口レーダー)センサで広域の森林状態を継続的に把握する技術です。ESA(欧州宇宙機関)のSentinel-2は分解能10m・5日リビジット・全世界無償公開、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のALOS-3「だいち3号」は分解能0.8m・パンクロマチック観測、Sentinel-1のCバンドSARは雲を透過しての日中夜間連続観測と、複数衛星の組合せで日本全土2,500万haの森林を毎週単位で監視可能です。本稿ではSentinel-2・ALOS-3・Sentinel-1の3軸を中心に、森林被害把握・伐採モニタリング・植生指数解析の運用方法を整理します。
この記事の要点
- Sentinel-2は分解能10m・5日リビジット・無償公開で森林被害広域監視の世界標準。日本全土を年間70回以上観測。
- JAXA ALOS-3(2023打上失敗、後継機計画中)は分解能0.8m・パンクロ観測予定で、25cmの違法伐採検出を目標。
- NDVI・EVI・NBR等の植生指数で森林衰退・伐採・山火事を自動検出、AI解析と組合せで全国2,500万haを週次監視。
クイックサマリー:主要観測衛星の仕様比較
| 衛星 | 分解能 | リビジット | 運用機関 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| Sentinel-2 A/B | 10〜60m | 5日 | ESA | 植生指数・全国監視 |
| Sentinel-1 A/B(SAR) | 5〜20m | 6日 | ESA | 雲下観測・伐採検出 |
| Landsat 8/9(USGS) | 15〜30m | 8日 | USGS/NASA | 長期トレンド・40年蓄積 |
| ALOS-2(PALSAR-2) | 3〜100m | 14日 | JAXA | LバンドSAR・森林マッピング |
| ALOS-4(2024打上) | 1〜25m | 14日 | JAXA | LバンドSAR後継機 |
| PlanetScope(民間) | 3m | 毎日 | Planet Labs | 商用・有償 |
| WorldView-3 | 0.31m | 受注 | Maxar | 超高分解能・有償 |
| GEDI(ISS搭載) | 25m | 不定期 | NASA | 宇宙LiDAR・樹高観測 |
Sentinel-2の概要と13バンド構成
Sentinel-2は、ESAのコペルニクス計画の一環として2015年(2A)と2017年(2B)に打上げられた光学観測衛星です。MultiSpectral Instrument(MSI)と呼ばれるセンサで13バンド(可視光・近赤外・短波長赤外)を観測し、可視光4バンド(青・緑・赤・近赤外)は10m分解能、植生のレッドエッジ4バンドは20m分解能、大気観測用3バンドは60m分解能を持ちます。観測幅290kmと広く、5日に1回の頻度(2機体制)で全世界を観測しています。
森林モニタリングで主に使われるバンドは、可視光(B2/B3/B4)、近赤外(B8)、レッドエッジ(B5/B6/B7)、SWIR(B11/B12)です。これらの組合せで、植生の活性度(NDVI)、樹冠水分量(NDWI)、火災跡地(NBR)、植生種類(多バンド分類)を識別できます。Sentinel-2のデータはCopernicus Open Access Hub等で全世界無償公開されており、研究・行政・民間のいずれも自由に利用可能です。
主要植生指数とその活用
植生指数(Vegetation Index)は、複数バンドの反射率を組合せて計算する数値で、植生の状態を定量化します。最も普及しているのはNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)で、近赤外と赤の正規化差で計算されます。NDVIは健全な植生で0.7〜0.9、衰退植生で0.3〜0.5、裸地で0以下となり、森林の活性度の代理指標として広く使われます。
| 指数 | 計算式 | 主な用途 | 健全林の値 |
|---|---|---|---|
| NDVI | (NIR−R)/(NIR+R) | 植生活性度・季節変化 | 0.7〜0.9 |
| EVI | G・(NIR−R)/(NIR+C1・R−C2・B+L) | 高密度植生・大気補正 | 0.5〜0.8 |
| NDWI | (NIR−SWIR)/(NIR+SWIR) | 樹冠水分・乾燥度 | 0.2〜0.5 |
| NBR | (NIR−SWIR2)/(NIR+SWIR2) | 山火事跡地・焼失面積 | 0.4〜0.7 |
| SAVI | ((NIR−R)/(NIR+R+L))・(1+L) | 疎植林・土壌補正 | 0.5〜0.8 |
| LAI | 回帰モデル/放射伝達 | 葉面積指数 | 3〜7 |
NDVIによる季節変動と被害検出
常緑針葉樹林(スギ・ヒノキ)のNDVIは年間を通じて0.7〜0.85の高い値で安定しますが、落葉広葉樹林は4〜5月の展葉期に0.3→0.8、10〜11月の落葉期に0.8→0.3と大きく季節変動します。被害林では年間平均NDVIが0.1〜0.3低下するため、複数年の時系列分析で被害域を抽出可能です。山形県・岐阜県等のナラ枯れ重篤地では、Sentinel-2の年次NDVI最大値マップ(Maximum Value Composite)を活用した広域被害判定が標準化されています。
SARによる雲下観測の利点
光学衛星は雲の下を観測できないため、年間50〜70日が雲量50%超の日本では、観測機会が限られます。これを補うのがSAR(Synthetic Aperture Radar)で、自ら電波を発射し反射信号を受信するため、雲・夜間・雨のいずれでも観測可能です。Sentinel-1(CバンドSAR、波長5.6cm)とALOS-2 PALSAR-2(LバンドSAR、波長23.5cm)が森林モニタリングの主力で、Lバンドは樹冠を透過し幹・地表からの後方散乱を捉えるため、森林バイオマス推定に優位性があります。
SARの後方散乱強度は、対象物の表面粗度・誘電率・形状に依存します。森林では幹・枝の構造に対応し、伐採地(裸地)では低く、密生林では高い値となります。Sentinel-1のC-バンドVV/VH偏波の組合せで、伐採検出の精度はF1=0.8〜0.9に達し、雲被覆の多い梅雨期の伐採モニタリングで光学衛星を補完します。JAXAのALOS-4(2024年6月打上げ)はLバンドSARで分解能1m(スポットライトモード)と、世界最高水準の解像度を実現します。
JAXA衛星:ALOS-2、ALOS-4、ALOS-3後継機
日本独自の地球観測衛星として、JAXAはALOS(陸域観測技術衛星)シリーズを運用しています。ALOS-2「だいち2号」(2014年打上)はLバンドPALSAR-2を搭載し、分解能3〜100m、観測幅25〜490kmで運用中です。森林マッピングでは「全球森林・非森林マップ(PALSAR Forest/Non-Forest Map)」が世界の研究機関で利用され、東南アジア・アマゾンの森林変化監視に貢献しています。
ALOS-4「だいち4号」(2024年7月打上成功)はALOS-2の後継機で、分解能1〜25m、観測幅最大700kmの広域・高頻度観測能力を持ちます。ALOS-3「だいち3号」(光学衛星)は2023年3月のH3ロケット試験機1号機の打上失敗で喪失しましたが、後継機(ALOS-3後継)の計画が進行中で、分解能0.8m(パンクロ)・3.2m(マルチ)の超高分解能観測を実現する予定です。これが運用開始すれば、25cm級の違法伐採の検出が広域・定期的に可能となります。
クラウド処理プラットフォームの活用
衛星データの解析は、Google Earth Engine(GEE)、AWS Open Data、Microsoft Planetary Computer等のクラウドプラットフォームの登場により劇的に容易になりました。GEEは、ペタバイト級のSentinel-2・Landsat・MODISデータを無償で提供し、ブラウザ上のJavaScript/Pythonで時系列解析・植生指数算出・面積集計まで実行可能です。日本全土2,500万haの森林について、過去10年のNDVI時系列を解析しても、PC側でデータをダウンロードする必要がありません。
日本独自のプラットフォームとしてはTellus(運営:さくらインターネット、データ提供:JAXA等)があり、ALOS-2/4のSARデータと国産アプリケーションを統合提供しています。林業向けのアプリケーションも開発が進み、日本の事業者・自治体の利用しやすい環境が整いつつあります。
森林被害広域監視の運用例
林野庁の「衛星データ等を活用した森林被害把握調査」では、Sentinel-2のNDVI時系列解析により全国2,500万haの森林について、年次・季節別の異常検出を実施しています。前年同月のNDVIに対し0.15以上の低下が見られた箇所を「要確認区域」として抽出し、ドローン・現地踏査による精査の優先順位付けに活用するワークフローが標準化されています。
具体例として、2022年9月の台風被害(北海道・東北)では、台風前後のSentinel-2画像比較とSentinel-1の差分干渉SARで風倒被害域を広域把握し、被害面積1,200ha・被害材積60万m³規模の早期推計が可能となりました。同様に山火事跡地のNBR解析、ナラ枯れの年次NDVI低下マップ、伐採地検出の時系列分析が、林野庁・各都道府県・大学・研究機関で日常的に運用されています。
衛星データの限界と他センサ融合
衛星データは広域・継続性で優れますが、(1)分解能の制約(10m分解能では単木抽出は困難)、(2)雲被覆による光学観測の中断、(3)樹種分類精度の限界(多くの場合針葉樹/広葉樹の二分類)、(4)樹高・本数等の3次元情報が直接得られない、という限界があります。これらを補うため、衛星×ドローンLiDAR×ドローンRGBの「マルチスケール統合」が国内外で標準化しつつあります。
林野庁の最新研究事業では、全国広域監視(衛星)、優先管理域の精査(ドローンRGB)、施業計画地の精密解析(ドローンLiDAR)、研究検証地(地上LiDAR)という4階層のセンサ融合ワークフローが実証されており、各スケールでの最適技術選択が体系化されています。
無償データと有償データの使い分け
研究・行政用途では、無償公開のSentinel-2・Landsat・ALOS-2 PALSAR-2モザイクで多くの目的が達成可能です。一方、即時性が必要な災害対応(台風直後の被害把握)や、3m以下の高分解能が必要な事案(個々の被害木検出、施設管理)では有償データ(PlanetScope、WorldView-3、Pleiades等)が選択肢となります。PlanetScopeは1km²あたり数百〜数千円、WorldView-3は1km²あたり数万円規模で、目的に応じた選択が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. Sentinel-2でスギとヒノキを区別できますか?
分解能10mのSentinel-2では、個別の樹種判別は困難です。ただし、純林規模の林分(数ha以上)であれば、年間の植生指数時系列パターン(フェノロジー)の違いから、針葉樹・広葉樹・常緑/落葉の大別は可能です。スギ・ヒノキの判別精度は概ね60〜75%にとどまり、より高い精度が必要な場合はSentinel-2+ドローンRGBの組合せが標準アプローチです。
Q2. 衛星データはどこで取得できますか?
Sentinel-2/1はESA Copernicus Open Access Hub、Landsat系はUSGS Earth Explorer、ALOS-2/4はJAXA G-Portal/Tellusが公式配信です。クラウド処理ではGoogle Earth Engine、Microsoft Planetary Computerが研究利用に最適で、ブラウザ・Pythonから直接アクセス・解析が可能です。商用ユースではAWS Open Data、Maxar SecureWatch等が選択肢となります。
Q3. 雲が多い日本で衛星観測は実用になりますか?
日本の年間平均雲量は50〜70%と高く、Sentinel-2の有効観測機会は年間20〜30回(5日リビジット×晴天率)に減ります。これを補うため、(1)月次最大値合成(Maximum Value Composite)で雲被覆分を回避、(2)Sentinel-1 SARを併用して全天候観測、(3)複数衛星の組合せで観測機会を増やす、の3戦略が有効です。
Q4. 衛星データの精度をどこまで信頼してよいですか?
地表反射率(Surface Reflectance)は±5%程度、植生指数のNDVIは絶対値で±0.05程度の精度です。森林被害把握では、変化検出(年間や季節の差分)が主目的のため、絶対精度よりも相対精度(時系列の再現性)が重要で、Sentinel-2は同一センサ・同一処理で運用される限り十分な精度です。地上検証によるキャリブレーションを行えば、面積把握精度±5%以内が達成可能です。
Q5. どのようなスキルが必要ですか?
研究レベルではPython・GEE JavaScriptのプログラミング、衛星画像処理(QGIS/ArcGIS/SNAP)、植生指数の解釈、統計解析の知識が必要です。実務レベルでは、すでに前処理されたNDVI時系列マップやWebGISダッシュボードを使えば、専門知識なしでも変化検出・被害把握が可能です。林野庁・JAXAは自治体向けの研修・マニュアル整備を進めています。
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まとめ
衛星リモートセンシングは、ESA Sentinel-2の10m分解能・5日リビジット・無償公開と、JAXA ALOS-2/4のLバンドSAR・全天候観測という2軸により、日本全土2,500万haの森林を週次〜月次で監視する基盤技術として確立しました。NDVI・EVI・NBR等の植生指数とAI解析を組合せれば、ナラ枯れ・松枯れ・風倒・違法伐採・山火事の広域把握が可能で、林野庁の森林被害把握事業の中核手法となっています。Google Earth Engine等のクラウド処理基盤の整備により、研究・行政・民間のいずれも参入容易となり、ドローン・LiDARとの階層統合が進む段階にあります。

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