日本の森林には、どれくらいの炭素がため込まれているか想像できるでしょうか。答えは約50億トン(t-C)、CO2に換算すると約183億t-CO2。これは日本の年間総排出量(11.4億t-CO2)のおよそ17年分にあたる、途方もない量です。しかも森林は毎年さらに炭素を吸い続けていて、2022年度の純吸収量は約4,500万t-CO2、国全体の排出のおよそ4%を打ち消しています。この50億トンの炭素がどこに、どんなかたちで蓄えられているのかを、5つの「貯蔵庫」から見ていきます。
炭素はどこに蓄えられているか
森林の炭素は、IPCCのガイダンスにならって、地上部バイオマス・地下部バイオマス・枯死木・落葉落枝・土壌という5つのプール(貯蔵庫)で把握します。意外に思われるかもしれませんが、いちばん大きいのは目に見える木の幹や枝ではなく、足元の土壌です。土壌だけで約26億t-C、全体の52%を占めます。
土壌炭素が量的に大きいことには、実は大事な含意があります。森を伐採して土壌が攪乱されると、ため込まれていた炭素が一気に放出されてしまうのです。架線集材や低衝撃の路網づくりといった「土を荒らさない」作業システムは、土砂流出を防ぐだけでなく、この炭素ストックを守るうえでも意味を持ちます。
目に見える地上部の15億t-Cに絞ると、内訳は人工林由来が9億、天然林由来が6億。面積では4割ほどの人工林が、地上部炭素の6割を占めます。スギ・ヒノキを中心とする人工林は単位面積あたりの蓄積(約325m³/ha)が天然林(約165m³/ha)の倍近くあり、炭素密度もそれだけ濃いというわけです。
1ヘクタールあたり200トン、車370台分
森林面積2,500万haで割り戻すと、平均的な炭素貯蔵量は1ヘクタールあたり約200t-C、CO2換算で約734t-CO2。乗用車1台が年に約2t-CO2排出するとして、およそ370台分が1ヘクタールに眠っている計算です。ただし林相による差は大きく、高齢のスギ人工林では300t-Cを超える一方、伐採直後の若い林では40t-C程度しかありません。
日本の人工林1,020万haの過半が11齢級(51年生)以上に達していて、単位面積あたりのストックは歴史的な高水準にあります。これは裏を返せば、伐採・更新を急ぐと貯め込んだストックを取り崩すことになる、というトレードオフを抱えているということでもあります。
毎年の吸収量はなぜ減っているのか
カーボンストックが「ため込んだ総量」だとすれば、毎年の吸収量はその「年間の増え方」です。2022年度の純吸収量は約4,500万t-CO2で、日本の総排出の約4%を相殺しました。ただ、2014年度のピーク(約5,200万t-CO2)から13%ほど減っています。理由はシンプルで、人工林が歳をとり、年間の成長量=吸収量が落ちてきているからです。
2030年度の森林吸収量目標は約3,800万t-CO2と、現状より低い水準が見込まれています。これは「高齢化による成長量低下は避けられない」という前提を、地球温暖化対策計画があらかじめ織り込んでいるためです。とはいえ手をこまねいているわけではなく、伐って・使って・また植えるサイクルの復活、成長の早いエリートツリーの普及、伐採木材製品(HWP)の算定拡充などで、吸収量を積み増す方策が進められています。
材積から炭素量を求める計算
森林の蓄積(材積m³)から炭素量(t-C)への換算は、「炭素量=立木材積×拡大係数×容積密度×炭素含有率」という式で行います。係数の代表値は次のとおりです。
| パラメータ | 針葉樹 | 広葉樹 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 拡大係数(BEF) | 1.23〜1.35 | 1.30〜1.40 | 幹材積から地上部全体へ |
| 容積密度(D) | 0.30〜0.42 | 0.55〜0.65 | 乾燥重量/生材積(t/m³) |
| 炭素含有率(CF) | 0.51 | 0.48 | 乾燥重量に対する炭素比 |
| CO2換算係数 | 3.67 | 3.67 | 炭素12 対 CO2 44の比 |
たとえばスギ100年生1ha(蓄積600m³)なら、地上部炭素は600×1.30×0.35×0.51で約139t-C(CO2換算約510t-CO2)。地下部を足すと174t-C、さらに土壌炭素まで含めれば250t-C・918t-CO2に達します。立木材積と炭素量がほぼ比例するので、人工林1,020万ha・蓄積33億m³から逆算した地上部炭素14〜16億t-Cは、インベントリの報告値ともきちんと整合します。
クレジットやカーボンニュートラルとのつながり
森林の炭素は、J-クレジット制度の方法論「FO-001 森林経営活動」「FO-002 植林活動」を通じて売買可能なクレジットになります。2024年時点で森林由来J-クレジットの認証量は累計約170万t-CO2と、年間排出の0.15%ほどにとどまります。単価は1t-CO2あたり3,000〜10,000円と再エネ由来より高めですが、追加性や永続性の証明、モニタリングのコストが普及の壁になっています。ここで大事なのは、クレジットになるのは「貯蔵量そのもの」ではなく「ベースラインを超えて追加で吸った分」だという点です。
2050年カーボンニュートラルに向けて、森林の役割は3層で考えられます。第1にインベントリ上の年間吸収量、第2にHWPによる長期の炭素貯蔵、第3に鉄やコンクリートを木材で置き換えるマテリアル代替効果です。木造住宅1棟(延床150m²)でCO2を約30t貯蔵し、鉄筋コンクリート造に比べて約50t排出を抑えられるとされ、合わせておよそ80t-CO2の効果。これがいちばん波及力の大きい出口戦略です。
森林ストックを今後どう動かすかは、「ストックを最大化するか」「毎年の吸収フローを最大化するか」という選択でもあります。伐採を止めればストックは2050年に55億t-Cまで増えますが、年間吸収量は2030年代後半にほぼゼロまで落ちます。逆に伐採・利用・再造林を回し続けると、ストックの伸びは抑えられるものの、年間吸収量を3,500〜4,500万t-CO2の安定水準で長く保てます。HWPやマテリアル代替まで含めると、フロー重視のほうが温暖化緩和効果は大きい――というのが林野庁・国立環境研究所のシナリオの結論です。
よくある質問
カーボンストック50億t-Cと吸収量4,500万t-CO2は何が違いますか?
ストックは累積の貯蔵量、吸収量は1年間の純変化量です。50億t-Cは森林に「ある」炭素の総量、4,500万t-CO2/年は森林が「新たに吸う」年間の流入量で、後者は前者の0.25%程度。毎年わずかずつストックが増えている状態を示しています。
なぜ年間吸収量が減っているのですか?
人工林の高齢化が主因です。樹木は齢が進むと成長量が落ち、年間に吸うCO2も減ります。日本の人工林の過半が51年生以上に達した結果、森全体の年間吸収量はピークを過ぎて緩やかに低下しています。主伐と再造林で若い林を増やせば、吸収量を維持できます。
土壌炭素26億t-Cはどう測っているのですか?
主に深さ30cmまでの土壌を採取し、有機炭素の含有率と容積重から算出します。林野庁・森林総合研究所が全国約1,000地点の固定プロットで定期測定しており、地質(黒ボク土・褐色森林土など)と林相を組み合わせた区分平均値でマクロ集計しています。30cmより深い層は未計上で、追加で10〜20億t-C規模が存在する可能性があります。

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