日本の森林には、どれくらいの炭素がため込まれているか想像できるでしょうか。答えはおよそ50億トン(t-C)、CO2に換算すると約180億t-CO2。これは日本の年間総排出量(約11億t-CO2)の10数年分にあたる、途方もない量です。しかも森林は毎年さらに炭素を吸い続けていて、近年の純吸収量は年4,500〜5,000万t-CO2、国全体の排出のおよそ4%を打ち消しています。この50億トンの炭素がどこに、どんなかたちで蓄えられているのかを、5つの「貯蔵庫」から見ていきます。
炭素はどこに蓄えられているか
森林の炭素は、IPCCのガイダンスにならって、地上部バイオマス・地下部バイオマス・枯死木・落葉落枝・土壌という5つのプール(貯蔵庫)で把握します。意外に思われるかもしれませんが、いちばん大きいのは目に見える木の幹や枝ではなく、足元の土壌です。土壌だけで全体のおよそ半分を占めるとみられています。
土壌炭素が量的に大きいことには、実は大事な含意があります。森を伐採して土壌が攪乱されると、ため込まれていた炭素が一気に放出されてしまうのです。架線集材や低衝撃の路網づくりといった「土を荒らさない」作業システムは、土砂流出を防ぐだけでなく、この炭素ストックを守るうえでも意味を持ちます。
目に見える地上部の15億t-Cに絞ると、内訳は人工林由来が9億、天然林由来が6億。面積では4割ほどの人工林が、地上部炭素の6割を占めます。スギ・ヒノキを中心とする人工林は単位面積あたりの蓄積(約325m³/ha)が天然林(約165m³/ha)の倍近くあり、炭素密度もそれだけ濃いというわけです。
1ヘクタールあたり200トン、車370台分
森林面積2,500万haで割り戻すと、平均的な炭素貯蔵量は1ヘクタールあたり約200t-C、CO2換算で約734t-CO2。乗用車1台が年に約2t-CO2排出するとして、およそ370台分が1ヘクタールに眠っている計算です。ただし林相による差は大きく、高齢のスギ人工林では300t-Cを超える一方、伐採直後の若い林では40t-C程度しかありません。
日本の人工林1,020万haの過半が11齢級(51年生)以上に達していて、単位面積あたりのストックは歴史的な高水準にあります。これは裏を返せば、伐採・更新を急ぐと貯め込んだストックを取り崩すことになる、というトレードオフを抱えているということでもあります。
毎年の吸収量はなぜ減っているのか
カーボンストックが「ため込んだ総量」だとすれば、毎年の吸収量はその「年間の増え方」です。2022年度の純吸収量は約4,500万t-CO2で、日本の総排出の約4%を相殺しました。ただ、2014年度のピーク(約5,200万t-CO2)から13%ほど減っています。理由はシンプルで、人工林が歳をとり、年間の成長量=吸収量が落ちてきているからです。
2030年度の森林吸収量目標は約3,800万t-CO2と、現状より低い水準が見込まれています。これは「高齢化による成長量低下は避けられない」という前提を、地球温暖化対策計画があらかじめ織り込んでいるためです。とはいえ手をこまねいているわけではなく、伐って・使って・また植えるサイクルの復活、成長の早いエリートツリーの普及、伐採木材製品(HWP)の算定拡充などで、吸収量を積み増す方策が進められています。
材積から炭素量を求める計算
森林の蓄積(材積m³)から炭素量(t-C)への換算は、「炭素量=立木材積×拡大係数×容積密度×炭素含有率」という式で行います。係数の代表値は次のとおりです。
| パラメータ | 針葉樹 | 広葉樹 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 拡大係数(BEF) | 1.23〜1.35 | 1.30〜1.40 | 幹材積から地上部全体へ |
| 容積密度(D) | 0.30〜0.42 | 0.55〜0.65 | 乾燥重量/生材積(t/m³) |
| 炭素含有率(CF) | 0.51 | 0.48 | 乾燥重量に対する炭素比 |
| CO2換算係数 | 3.67 | 3.67 | 炭素12 対 CO2 44の比 |
たとえばスギ100年生1ha(蓄積600m³)なら、地上部炭素は600×1.30×0.35×0.51で約139t-C(CO2換算約510t-CO2)。地下部を足すと174t-C、さらに土壌炭素まで含めれば250t-C・918t-CO2に達します。立木材積と炭素量がほぼ比例するので、人工林1,020万ha・蓄積33億m³から逆算した地上部炭素14〜16億t-Cは、インベントリの報告値ともきちんと整合します。
クレジットやカーボンニュートラルとのつながり
森林の炭素は、J-クレジット制度の森林分野の方法論(森林経営活動・植林活動など)を通じて売買可能なクレジットになります。ただし森林由来J-クレジットの認証量は限られ、年間排出のごくわずかを占めるにすぎません。単価は再エネ由来より高めの傾向ですが、追加性や永続性の証明、モニタリングのコストが普及の壁になっています。ここで大事なのは、クレジットになるのは「貯蔵量そのもの」ではなく「ベースラインを超えて追加で吸った分」だという点です。
2050年カーボンニュートラルに向けて、森林の役割は3層で考えられます。第1にインベントリ上の年間吸収量、第2にHWP(伐採木材製品)による長期の炭素貯蔵、第3に鉄やコンクリートを木材で置き換えるマテリアル代替効果です。木造住宅は1棟あたり数十t-CO2規模の炭素を長期に固定し、さらに鉄筋コンクリート造に比べて建設時の排出を抑えられるとされます。これがいちばん波及力の大きい出口戦略です。
森林ストックを今後どう動かすかは、「ストックを最大化するか」「毎年の吸収フローを最大化するか」という選択でもあります。伐採を大きく絞ればストックは増え続けますが、年間吸収量は高齢化とともにやがてゼロに近づきます。逆に伐採・利用・再造林を回し続けると、ストックの伸びは抑えられるものの、年間吸収量を長く一定水準に保てます。HWPやマテリアル代替まで含めると、伐って使って植え直す「フロー重視」のほうが温暖化緩和効果は大きい――とする分析もあります。
よくある質問
カーボンストック50億t-Cと吸収量4,500万t-CO2は何が違いますか?
ストックは累積の貯蔵量、吸収量は1年間の純変化量です。50億t-Cは森林に「ある」炭素の総量、4,500万t-CO2/年は森林が「新たに吸う」年間の流入量で、後者は前者の0.25%程度。毎年わずかずつストックが増えている状態を示しています。
なぜ年間吸収量が減っているのですか?
人工林の高齢化が主因です。樹木は齢が進むと成長量が落ち、年間に吸うCO2も減ります。日本の人工林の過半が51年生以上に達した結果、森全体の年間吸収量はピークを過ぎて緩やかに低下しています。主伐と再造林で若い林を増やせば、吸収量を維持できます。
土壌炭素26億t-Cはどう測っているのですか?
主に深さ30cmまでの土壌を採取し、有機炭素の含有率と容積重から算出します。森林総合研究所などが全国のグリッド上に設けた固定プロットで定期測定しており、地質(黒ボク土・褐色森林土など)と林相を組み合わせた区分平均値でマクロ集計しています。30cmより深い層にも相当量の炭素が存在するとみられ、算定の対象範囲は今後の課題です。

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