同じ「木を伐り出す」仕事でも、日本の林業作業員が1日で生産する木材は主伐で約7m³。ところが欧米の林業国では、その3〜5倍という水準が珍しくありません。オーストリアでは車両系の作業システムで30〜60m³/人日、架線系でも7〜43m³/人日という数字が報告されています(令和2年版 森林・林業白書)。日本が大きく劣るのは、サボっているからでも技術が劣っているからでもありません。山の地形と、そこに通された道の量の違いです。本稿では、この差がどこから来るのかを掘り下げます。
1日7m³という現実
林業の労働生産性は「人日当たり伐出量(m³/人日)」、つまり作業員1人が1日に伐って運び出す木材の量で測ります。日本は2018年時点で主伐が約7m³、間伐が約4m³。これを主要国と並べると、その差は一目瞭然です。
ただ、悲観一辺倒ではありません。日本も2010年の3.7m³から2022年の約7m³へと、12年で約1.9倍に伸びています。年率5%超という成長率は、製造業の労働生産性(年1〜2%)を大きく上回ります。問題は、欧州も同時に前進しているため、絶対差がなかなか縮まらないこと。追いつくには10〜20年がかりの継続投資が要る、ということです。
差を生む正体は「道の量」
日本と欧州の生産性の差は、大きく分けて「路網(道の量)」「機械化」「林分構造(樹種・齢級・地形)」「熟練度・組織運営」の4つの要因で説明されます。このうち路網と機械化という物理的・構造的な要因が大きく、ここは政策投資で動かせる部分です。
なかでも効くのが路網密度——森林1haあたりに通っている道の長さです。下のグラフを見てください。
日本は23m/ha、ドイツは118m/haで実に5倍の開き。道が少ないと、伐った木を道端まで運ぶ「集材」の距離が伸びます。日本の現場では集材距離が平均120〜180mですが、路網が密な現場では40〜60mに縮み、集材作業の手間は約半分に。さらに道が密だとハーベスタやフォワーダといった自走式の大型機械が林の奥まで入れるので、人力に頼る架線集材が機械に置き換わる。道は、距離短縮と機械活用の両方に効く要なのです。
北欧は道が少ないのに、なぜ速い?
ここで不思議に思うかもしれません。フィンランドやスウェーデンの路網密度は12〜15m/haと、むしろ日本より少ない。なのに生産性は25m³/人日です。答えは地形。北欧は傾斜10度未満の緩やかな土地が大半で、大型ハーベスタを直接林に乗り入れられます。立木を倒し、枝を払い、定尺に玉切りするまで機械が一気に処理する「CTL方式」が標準なのです。
対して日本は、地形の急な林地の割合が高く、北欧型の機械乗り入れは難しい。だから日本が手本にすべきは、同じく山岳地形を抱えるオーストリア(路網約89m/ha)です。急傾斜地ではタワーヤーダ(鋼鉄の塔から架線を張る集材機)で安全に吊り下げ搬出する。林野庁の研修や視察もオーストリア・スイスに重点が置かれています。下の表に、各国の数字と伐出方式をまとめました。
| 国 | 主伐生産性 (m³/人日) |
路網密度 (m/ha) |
主な伐出方式 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 7 | 23 | 中型機械+架線系 |
| ドイツ | 20 | 118 | 大型ハーベスタ主流 |
| オーストリア | 20 | 89 | 山岳地架線+機械 |
| フィンランド | 25 | 15 | 大型ハーベスタ(緩傾斜) |
| 米国(PNW) | 30 | 25 | フェラーバンチャー |
じつは「日本全体」の問題ではない
ここが本稿で一番伝えたいところです。日本の生産性が低いのは、国全体が一様に遅れているからではありません。事業体の規模による格差が大きいのです。家族経営の小規模事業体が人力主体で数m³/人日にとどまる一方、複数班とハーベスタ・フォワーダを揃えた大規模事業体では、その2倍前後——欧州中位に近い水準——を出しているところもあります。
つまり日本の課題は「全員が遅い」ことではなく、「速い少数」と「遅い多数」に分かれていること。生産性を底上げするカギは、優良事業体への集約と、小規模層の組織化(森林組合・森林経営管理制度)を同時に進めることにあります。
地形は言い訳にならない
先進的な事業体の現場をみると、生産性を押し上げているのは共通して次の3つです。まとまった連続した事業地を確保して機械の移動ロスをなくすこと。ハーベスタとフォワーダを複数揃えて複数班で並行作業し、機械の休止時間を減らすこと。そして伐採から出荷までをクラウドやアプリで管理し、日々の生産性を見える化して現場の改善を回すこと。北海道の緩傾斜のカラマツ・トドマツ林では北欧型のCTL方式で高い数字を出す協業体があり、岩手など急峻な地形の県有林でも、タワーヤーダと計画的な路網整備の組み合わせで着実に生産性を上げています。地形が厳しくても、やり方次第で届くのです。
2030年へ、3つのレバーを同時に
林野庁は2030年に主伐10m³/人日(現状から約4割増)を目標に掲げます。そのための政策レバーは3つ。路網密度を平均38m/haへ倍増させること、急傾斜地対応の機械(小型ハーベスタ・タワーヤーダ等)を普及させること、そして1団地100ha以上の集約施業地を確保することです。
この3つは互いに支え合っています。機械だけ入れても道が細ければ大型機は使えず、集約しなければ機械の稼働率が上がらない。だから「3つ同時に」が鉄則です。路網整備の費用対効果も明確で、森林作業道はおおむね5〜10年で投資を回収でき、20年以上使えます。優良事例が示すとおり、路網50m/ha・100ha集約・大型機械という3条件がそろえば、日本の急峻な地形でも欧州並みの生産性は十分に手が届く。生産性向上は、林業で働く人の賃金を上げ、若い担い手を呼び込むための土台でもあるのです。

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