森林・林業基本計画|5年改定の政策フレームワーク

森林・林業基本計画 | 森と所有 - Forest Eight

森林・林業基本計画は、森林・林業基本法第11条に基づき政府が概ね5年ごとに改定する林政の最上位計画です。直近の改定は2021年6月で、2030年の素材生産量4,200万m³、木材自給率50%、森林吸収量年間3,800万t-CO2を目標数値として明示しました。林野庁予算約3,000億円の配分、森林環境譲与税500億円規模の使途、造林補助金の標準単価設定まで、すべての林政運用が本計画の基本方針に紐づいて設計されています。本稿では基本計画の5年改定サイクル、目標数値の構造、政策フレームワークとしての含意を、1964年の旧林業基本法から現行計画までの政策史を踏まえて整理します。

この記事の要点

  • 森林・林業基本計画は森林・林業基本法第11条に基づき概ね5年ごとに改定される林政の最上位フレームワーク。2001年の林業基本法改定以降、現行の2021年計画まで5回改定。
  • 2021年計画は2030年に素材生産量4,200万m³(2020年2,200万m³の約1.9倍)、木材自給率50%、森林吸収量3,800万t-CO2、森林経営計画認定面積800万ha以上を目標化。
  • 基本計画は林野庁予算3,000億円、森林環境譲与税500億円、造林補助金1,200億円規模の政策資源配分の根拠となり、5年サイクルでの目標再設定が予算編成に直結。
目次

クイックサマリー:森林・林業基本計画の基本数値

指標 数値 出典・備考
基本法施行年 1964年 2001年に林業基本法から森林・林業基本法へ全面改正
基本計画改定間隔 概ね5年 基本法第11条第7項
直近改定 2021年6月 第5次計画
2030年素材生産量目標 4,200万m³ 2020年2,200万m³の1.9倍
2030年木材自給率目標 50% 2024年実績42.4%
2030年森林吸収量目標 3,800万t-CO2 第6次エネ基・地球温暖化対策計画と整合
経営計画認定面積目標 800万ha 2024年実績約400万ha
林野庁当初予算 約3,000億円 2024年度
森林環境譲与税 500億円規模 2024年度予算ベース
基本計画策定主体 政府(閣議決定) 農林水産大臣が原案を作成

森林・林業基本法と基本計画の制度構造

森林・林業基本計画は、2001年に全面改正された森林・林業基本法(旧林業基本法)の第11条を法的根拠とし、政府が森林および林業に関する施策の総合的・計画的推進のために策定する最上位計画です。基本法第11条第1項で「政府は、森林及び林業に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、森林・林業基本計画を定めなければならない」と義務規定が置かれ、同条第7項で「情勢の変化を勘案し、概ね5年ごとに、基本計画について検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない」と定期改定が制度化されています。

基本計画の射程は3層に整理されます。第1層が施策の基本的な方針(理念・目標)、第2層が森林の有する多面的機能の発揮ならびに林産物の供給および利用に関する目標(数値目標)、第3層が施策に関する事項(具体的政策パッケージ)です。本計画はその下位に位置する全国森林計画(林野庁長官策定、5年ごと)、地域森林計画(都道府県知事策定、5年ごと)、市町村森林整備計画(市町村長策定、10年ごと)の3層計画体系に基本方針を伝達する役割を担います。

森林・林業基本計画と下位計画の階層構造 基本法と基本計画、全国森林計画、地域森林計画、市町村森林整備計画の関係を階層図で示す 森林・林業基本法(2001年) 第11条で基本計画策定を義務付け 森林・林業基本計画 概ね5年ごとに改定(直近2021年6月)/閣議決定 全国森林計画 林野庁長官策定/5年 地域森林計画 都道府県知事策定/5年 市町村森林整備計画 市町村長策定/10年 森林経営計画 森林所有者・受託者が作成/5年 基本計画は最上位計画として下位の3層計画体系に方針を伝達。林野庁予算・森林環境譲与税の配分根拠となる。
図1:森林・林業基本計画と下位計画の階層構造(出典:林野庁「森林・林業基本計画」2021年6月、森林・林業基本法)

1964年林業基本法から2001年森林・林業基本法への転換

制度の起点は1964年制定の林業基本法です。1955年から1969年にかけての高度経済成長期に、木材需要の急増と山村経済の構造調整を背景として、林業の生産性向上・林業従事者の所得向上を目的に施行されました。同法に基づく「林業基本計画」は林産物の生産・流通・消費に係る政策に焦点を絞った計画でしたが、1990年代に入り森林の多面的機能(水源涵養・土砂流出防備・生物多様性保全・CO2吸収)に対する社会的要請が高まり、2001年6月に法律名を「森林・林業基本法」へと変更し、政策対象を森林全体へと拡張する大改正が行われました。これに伴い計画名称も「林業基本計画」から「森林・林業基本計画」へと改称され、現行体系の起点となっています。

5年改定サイクルの履歴:5回の基本計画

2001年の森林・林業基本法施行以降、基本計画は2001年(第1次)、2006年(第2次)、2011年(第3次)、2016年(第4次)、2021年(第5次)の5回改定されています。各計画は当時の政策的背景を反映した重点項目を持ち、林政のトーンの変遷を辿ることができます。第1次(2001年)は多面的機能の発揮を中軸に据え、面積ゾーニング(水土保全林・森林と人との共生林・資源循環利用林)を導入。第2次(2006年)は林業構造改革と国産材需要の回復、第3次(2011年)は東日本大震災と森林・林業再生プラン(2009年)の反映、第4次(2016年)は2015年合意のパリ協定と森林吸収量2,700万t-CO2の目標明記、第5次(2021年)はカーボンニュートラル2050宣言を受けた森林吸収量3,800万t-CO2と素材生産4,200万m³への大幅引き上げ、という流れです。

改定 策定年 主要な政策的背景 特徴的な目標数値
第1次 2001年10月 基本法改正・多面的機能重視 機能区分3類型・面積ゾーニング
第2次 2006年9月 国産材需要回復・林業構造改革 国産材自給率50%目標
第3次 2011年7月 森林・林業再生プラン・震災復興 10年後素材生産3,900万m³
第4次 2016年5月 パリ協定・地球温暖化対策計画 森林吸収量2,700万t-CO2
第5次 2021年6月 カーボンニュートラル2050・グリーン成長戦略 素材生産4,200万m³・吸収量3,800万t

5年改定が制度設計の核となるのは、計画の目標数値が単なる努力目標ではなく、林野庁予算編成・補助金単価設定・森林環境譲与税の配分根拠として実務的に機能するためです。第5次計画で「2030年に素材生産量4,200万m³」と明記されたことで、その後の予算要求書には「基本計画目標達成に向け」という文言が連動し、5年サイクルでの政策資源動員が制度化されています。

第5次基本計画(2021年)の目標数値構造

2021年6月に閣議決定された第5次森林・林業基本計画は、2050年カーボンニュートラル宣言(2020年10月)を受けて目標数値が大幅に上方修正されました。中核指標である2030年素材生産量4,200万m³は、2020年実績2,200万m³の約1.9倍であり、過去20年間の伸び率(2000年約1,500万m³から2020年約2,200万m³)を遥かに上回る加速ペースです。木材自給率50%は2024年実績42.4%からの+7.6ポイント引き上げ、森林吸収量3,800万t-CO2は地球温暖化対策計画(2021年10月改定)の温室効果ガス削減目標46%(2030年度/2013年度比)達成のための内訳数値として整合しています。

基本計画の主要目標推移(第3次〜第5次) 素材生産量・木材自給率・森林吸収量の3指標について第3次から第5次計画の目標値推移 基本計画の主要目標値(2030年水準) 素材生産量(万m³) 第3次:3,900 第4次:4,000 第5次:4,200 木材自給率(%) 第3次:50 第4次:50 第5次:50 森林吸収量(万t-CO2) 第3次:3,800 第4次:2,700 第5次:3,800 第4次の吸収量目標は人工林老齢化を反映し抑制的、第5次でカーボンニュートラル目標に再び引き上げ。
図2:基本計画目標数値の推移(出典:林野庁「森林・林業基本計画」第3次〜第5次)

森林吸収量目標が第3次(2011年)3,800万t→第4次(2016年)2,700万t→第5次(2021年)3,800万tと「下げて再度引き上げる」軌跡をたどる点は注目すべきです。第4次計画策定時の2016年は、京都議定書第一約束期間(2008-12年)終了後の森林吸収量算定方法見直しと、人工林の老齢化進行に伴う成長量自体の減少が反映された結果、2,700万tという保守的目標が設定されました。第5次でカーボンニュートラル目標達成のため再度3,800万tへ引き上げる際には、エリートツリーの普及(2030年苗木供給量年間3,000万本)、再造林率の向上(2030年に60%)、未利用材の利用拡大などの政策パッケージで吸収量を確保する設計に組み替えられています。

基本計画の政策パッケージ:4本柱の構造

第5次基本計画は施策事項を4つの柱に整理しています。第1の柱は「森林の有する多面的機能の発揮」で、適切な間伐・主伐後の再造林の確実な実施、シカ等野生鳥獣による森林被害対策、災害に強い森林づくり、保安林の適切な管理を含みます。第2の柱は「林業の持続的かつ健全な発展」で、需要に応じた木材の安定供給、林業経営体の育成、人材の確保・育成、労働安全対策、林業生産基盤の整備を含みます。第3の柱は「林産物の供給及び利用の確保」で、住宅・非住宅分野での木材利用拡大、輸出促進、木質バイオマス・新たな木材製品の開発を含みます。第4の柱は「東日本大震災からの復旧・復興と原発事故への対応」を経て、現行計画では「カーボンニュートラルへの貢献等」へと組み替えられています。

主要施策 関連予算規模
多面的機能発揮 間伐・再造林、保安林管理、治山事業、シカ被害対策 森林整備事業1,200億円・治山事業620億円
林業の持続的発展 経営体育成、緑の雇用、林道整備、スマート林業 緑の雇用50億円・林道整備450億円
林産物の供給・利用 木材利用拡大、輸出促進、木質バイオマス 木材産業対策40億円・輸出20億円
カーボンニュートラル貢献 エリートツリー普及、J-クレジット、HWP評価 森林環境譲与税500億円が補完

第5次計画では「新しい林業」というキーワードが新たに導入され、ICT・ドローン・LiDAR・自動造材等のスマート林業技術導入、エリートツリーや早生樹(センダン・コウヨウザン)による短伐期施業、再造林の機械化(自動植栽機・地拵え機械)など、生産性を倍増させる技術ロードマップが組み込まれました。これらは林野庁の予算事業「林業イノベーション推進事業」「スマート林業構築普及展開事業」「新しい林業に向けた林業経営育成対策」等に直接的に紐づいて運用されており、基本計画と予算事業の整合性が運用面で担保されています。

基本計画と予算配分の連動構造

基本計画の目標数値は林野庁の予算編成プロセスに直接反映されます。林野庁の当初予算は概ね3,000億円規模(2024年度2,940億円、別途森林環境譲与税500億円)で、その内訳は森林整備事業1,200億円、治山事業620億円、林道整備450億円、林業振興予算200億円、その他(試験研究・国際協力・国有林管理等)530億円となっています。各予算項目の積算根拠には「基本計画における目標達成に必要な事業量」が示され、たとえば森林整備事業1,200億円のうち造林補助金部分は「2030年再造林率60%達成のため年間3万ha(人工林主伐4万ha×60%+自然更新分)の再造林に必要な事業費」として算出されています。

林野庁予算と森林環境譲与税の配分構造 林野庁当初予算3,000億円の事業別配分と森林環境譲与税500億円の補完関係 林野庁予算3,000億円+森林環境譲与税500億円の配分構造 森林整備事業 1,200億円 治山事業 620億円 林道整備 450億円 林業振興 200億円 その他 530億円 森林環境譲与税 500億円 林野庁予算は基本計画目標達成のため事業費を積み上げ、森林環境譲与税は市町村に直接配分されて経営管理制度を補完。 2024年度=林野庁2,940億円+森林環境譲与税500億円。総務省所管。
図3:林野庁予算と森林環境譲与税の配分構造(出典:林野庁「令和6年度林野関係予算」、総務省「森林環境譲与税」)

予算編成と並んで、基本計画は税制要望の根拠としても機能します。森林環境譲与税は2018年の税制改正大綱で導入が決定されましたが、その制度設計理念には「森林・林業基本計画における経営管理制度の市町村実装に必要な財源」という位置付けが明示されています。森林計画特別控除(所得税)、山林相続税納税猶予、山林所得5分5乗方式といった既存の税制優遇措置についても、基本計画の改定時にその制度評価が行われ、必要に応じて見直しが図られる仕組みです。

基本計画の評価指標と進捗管理

基本計画は5年改定の中間で「林業白書」(年次報告)による進捗評価を受けます。森林・林業基本法第10条は「政府は、毎年、国会に、森林及び林業の動向並びに政府が森林及び林業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない」と規定し、林業白書がこの法定報告書に該当します。白書では基本計画の主要KPI(素材生産量・自給率・森林吸収量・経営計画認定面積等)の前年実績と目標進捗率が毎年公表され、目標未達の項目については原因分析と政策強化が施策化される仕組みです。

第5次計画策定時から2024年までの3年間の進捗を見ると、素材生産量は2020年2,200万m³から2023年2,300万m³(年率1.5%増)へ、木材自給率は41.8%から42.4%(+0.6ポイント)へと推移しています。2030年目標に対する達成ペースは、素材生産で目標達成軌道の約60%、自給率で約50%程度に留まり、現状ペースでは達成困難な水準です。このため2025年の地球温暖化対策計画見直し、2026年予定の第6次基本計画策定に向けて、再造林率引き上げ・主伐推進・林業労働力対策の強化策が検討されています。

2026年第6次計画への論点

第5次計画から5年が経過する2026年に、第6次森林・林業基本計画の策定が予定されています。論点として既に林政審議会等で示されているのは、第1にカーボンニュートラル2050年に向けた中間目標年(2035年・2040年)の数値設定、第2にエリートツリー・早生樹普及の更なる加速(2040年苗木供給1億本規模)、第3に森林環境譲与税の使途拡大と経営管理制度の市町村実装率引き上げ(2024年82%から2030年100%へ)、第4にネイチャーポジティブ・TNFD対応のための生物多様性指標の組み込み、第5に林業労働力の50%減少(1980年14.6万人→2020年4.4万人)に対するスマート林業による生産性確保の戦略強化です。

これらは林野庁・総務省・環境省・経済産業省・国土交通省にまたがる政策課題群であり、基本計画はその統合フレームワークとしての性格を強めると見られます。とくに森林吸収量の算定方法は2030年以降のNDC(国が決定する貢献)改定と連動するため、UNFCCC・IPCC方法論の動向と整合させた目標再設定が第6次計画の中心論点となる見込みです。

よくある質問(FAQ)

Q1. 森林・林業基本計画はどのくらいの頻度で改定されますか?

森林・林業基本法第11条第7項により概ね5年ごとに改定されます。直近は2021年6月の第5次計画で、次回は2026年に第6次計画が策定される予定です。基本計画の改定は閣議決定を経て公表され、その内容は林業白書・林野庁予算編成・補助金単価設定・税制改正要望の基礎資料として5年間活用されます。

Q2. 第5次基本計画の最も重要な目標数値は何ですか?

2030年素材生産量4,200万m³(2020年比1.9倍)、木材自給率50%(2024年42.4%)、森林吸収量3,800万t-CO2の3指標が中核です。とりわけ素材生産量4,200万m³は過去20年の伸び率を大きく上回る加速目標で、その達成にはエリートツリー普及・スマート林業・林業労働力確保の3つを同時に進める必要があります。

Q3. 基本計画と林野庁予算の関係はどうなっていますか?

基本計画の目標数値が予算事業の積算根拠となります。林野庁当初予算約3,000億円のうち森林整備事業1,200億円は「2030年再造林率60%達成」を、治山事業620億円は「災害に強い森林づくり」を、林道整備450億円は「2030年素材生産4,200万m³」を支える基盤として、それぞれ基本計画目標に紐づいて編成されます。

Q4. 基本計画と森林経営計画はどう違いますか?

基本計画は政府全体の最上位計画(閣議決定)で、森林経営計画は森林所有者または受託者が個別の森林について作成する5年計画です。基本計画→全国森林計画→地域森林計画→市町村森林整備計画→森林経営計画の5階層構造で、上位計画の方針が下位計画に伝達される設計になっています。森林経営計画認定面積の目標値(800万ha)は基本計画で設定されます。

Q5. 第6次基本計画ではどのような論点が議論されていますか?

2026年策定予定の第6次計画では、カーボンニュートラル2050に向けた2035・2040年中間目標、エリートツリー普及加速、森林経営管理制度の市町村実装率100%化、ネイチャーポジティブ・TNFD対応の生物多様性指標、スマート林業による労働生産性向上の5点が論点として浮上しています。林政審議会で議論が進められており、2026年中の閣議決定が想定されます。

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まとめ

森林・林業基本計画は森林・林業基本法第11条に基づき政府が概ね5年ごとに改定する林政の最上位フレームワークです。2021年6月策定の第5次計画は、2030年素材生産量4,200万m³、木材自給率50%、森林吸収量3,800万t-CO2を目標数値として明示し、林野庁予算3,000億円・森林環境譲与税500億円の配分根拠として機能しています。2026年予定の第6次計画では、カーボンニュートラル2050年への中間目標、エリートツリー普及、経営管理制度の市町村実装100%化、TNFD対応が中心論点となる見込みで、5年改定サイクルが林政の方向性を決定する制度的中核であり続けます。

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