山村振興法がいう「山村」は、国土の47%、全国の林野面積の61%を占める。そこに住む人は、全国の2.5%。広さの半分近くに、人口の2.5%。これが振興山村という地域の姿だ。
では、どこが「山村」なのか。決めている数字は、現在のものではない。昭和35年(1960年)の林野率と人口密度だ。
山村かどうかは、1960年の数字で決まる
振興山村の指定には、山村振興法第2条と政令が定める要件がある。農林水産省の資料によれば、旧市町村(昭和25年=1950年2月1日時点の単位)について、昭和35年時点で次の2つを満たし、さらに交通・経済・文化の条件に恵まれず、産業基盤や生活環境の整備が他の地域より十分でないものが対象になる。
- 林野率が0.75(75%)以上
- 人口密度が1.16人/町歩未満(1町歩は約1haなので、1km²あたり約117人)
知事の申請を受けて、国土交通・総務・農林水産の3大臣が指定する。指定はすでに終わっていて、昭和55年までにすべての指定を終えていると同じ資料に書かれている。つまり、いま「山村」と呼ばれている区域は、40年以上前に決まった区域だ。
数字の整理をしておく。振興山村を持つ市町村は734(全国1,719の43%)。そのうち、市町村の全域が振興山村の「全部山村」は200、一部だけが振興山村の「一部山村」は534だ。734市町村の7割以上は、町や村の中に「山村である部分」と「そうでない部分」が同居している。
面積で見ると、振興山村は1,789万ha(平成27年)。林野面積は1,513万haで、全国2,477万haの61%にあたる。振興山村の土地利用は林野が85%、耕地は4%だ。面積の割合47%に対して、人口の割合は2.5%。約19倍の開きがある(編集部の計算)。
どこにあるのか
市町村の数でみると、振興山村の割合が高いのは中国(65.4%)、東北(64.3%)、四国(63.2%)、北陸(63.0%)。意外なのは九州で、27.7%と全ブロックで最も低い。都道府県別の最高は岩手の87.9%(33市町村中29)で、高知82.4%、秋田80.0%、島根78.9%、大分77.8%と続く。
ゼロなのは大阪・長崎・沖縄の3府県だけだ。千葉は54市町村のうち1、東京は39のうち2、神奈川は33のうち3。「都市圏には指定がない」と言えるのは大阪くらいで、ほかはゼロではない。
数字で見る、山村の暮らし
農林水産省がまとめた令和7年11月の資料に、振興山村の暮らしの数字が並んでいる。平成22年(2010年)から令和2年(2020年)までの10年間で、全国の人口は1%減。振興山村市町村は7%、全部山村は19%減った。65歳以上の割合は、全国28%に対して振興山村市町村31%、全部山村41%。財政力指数の平均は、全国0.51に対して振興山村市町村0.38、全部山村0.24。
平均所得は、振興山村市町村が全国の約9割、全部山村が約8割で、10年間この差は変わっていない。主要道路の舗装率は全国約98%に対して振興山村市町村で約97%、全部山村で約94%と、道路はほぼ追いついた。一方、し尿の水洗化率は全国96%、振興山村市町村93%に対し、全部山村は79%。人口当たりの病院・診療所数は、全部山村で全国の65%の水準にとどまる。小学校数は10年あまりで、全国12%減に対し全部山村では33%減った。
道路は直った。直らなかったのは、人が減ることだ。これは法律の問題というより、表の数字の話である。
60年間、期限を6度延ばした法律
山村振興法は、昭和40年に議員立法で作られた10年間の時限立法だった。その後、昭和50年、60年、平成7年、17年、27年、令和7年の6度にわたり期限が延長され、現行法の期限は令和17年(2035年)3月31日だ。10年の時限法が、60年たってもまだ終わっていない。
延長のたびに、中身は少しずつ変わっている。平成17年には山村振興計画の作成主体が市町村になり、平成27年には「山村の自立的発展」を目的に加え、基本理念が追加された。令和3年には租税特例措置が廃止されている。令和7年の改正でも期限が10年延びた。
この法律で、何が受けられるのか
仕組みは三段になっている。まず都道府県が「山村振興基本方針」を作り、それに基づいて市町村が「山村振興計画」を作る。計画は市町村が都道府県と協議して作成し、主務大臣に提出する。計画に載せた事業を支える制度が、以下のとおり。
- 山村活性化支援交付金:農林水産省の交付金。平成27年度以降で約310地区が実施し、農畜水産加工品、木材製品、ジビエ加工品などの商品が生まれている。
- 基幹的な市町村道・農道・林道の都道府県代行:整備が特に緊要な場合、都道府県が市町村に代わって新設・改築できる。国費の補助率は50/100等。令和6年度は32件で、うち31件が林道だった。
- 日本政策金融公庫の資金:振興山村で農林漁業を営む者が、知事の認定を受けた計画の実施に必要な資金を借りられる(第17条)。
- 配慮規定:国は補助についての条件の改善、地方公共団体の財源の確保などを講ずるよう「配慮」する(第4条)。
山村振興計画の作成・変更は、平成27年度以降の累計で292市町村(令和7年10月末現在)。振興山村市町村734のうち、4割にあたる。残りは、平成27年度の法改正以降に計画を作成・変更していない。
森林環境譲与税は別の制度で、山村振興法とは法律も財源も異なる。仕組みは森林環境税・森林環境譲与税の記事にまとめた。県ごとの森林率は都道府県別森林率の記事、山を持つ側の事情は私有林の所有規模の記事で扱っている。
公表資料では確認できなかったこと
- 山村振興法による補助率かさ上げの上げ幅。法律の条文は「条件の改善」への配慮を定めるにとどまり、「+5〜10ポイント」などの数字は見つからなかった。以前の版にあった数字は、出典が確認できないため載せていない。
- 過疎法の指定地域との重複率。以前の版にあった「約85%」は、今回の資料では確認できなかった。
- 以前の版にあった「限界集落2万」「山村振興農林漁業対策事業費の6割が林業」といった数字。令和7年の資料に該当する記述がなく、載せていない。
- 「島根は県内19市町村すべてが指定」は誤りで、令和8年4月時点では19市町村中15(全部山村3、一部山村12)。
- 振興山村の人口の具体的な年次推移。全国に占める割合(2.5%)と、令和2年の人口319万人は公表されている。
山村振興法は、昭和35年の山の姿を物差しにして、令和の山村を支えている。物差しが古いことと、制度が役に立つことは別の話だ。ただ、資料に載っている指定要件の数字が昭和35年のものだという点は、表に書いてある事実である。
- 農林水産省「山村振興法」関連資料(山村振興法の概要/山村をめぐる状況/振興山村市町村数 令和8年4月1日)
- e-Gov法令検索「山村振興法」(昭和40年法律第64号)
- 林野庁「令和7年度 森林・林業白書」第2章第3節(振興山村の指定状況・無人化集落)

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